京都造形芸術大学客員教授、放送作家。音楽プロデューサー。ワールドシフトネットワークジャパン代表理事。
1964年、静岡生まれ。環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマにしたTV、ラジオ番組、出版を企画・構成するかたわら、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&キュレーターとして活動中。国連 地球サミット(RIO+20)など国際会議のNGO参加・運営・社会提言に関わるなど、持続可能な社会システムに関して深い知見を持つ。リバースプロジェクトCGL研究員。
新しい価値観へのシフトのために、必要なコト
「花は、愛と平和の象徴。そして、花には花それぞれに、大いなる自然のパワーが宿っています。私たち日本人は、明治の近代化、戦後の大量生産大量消費社会の波にのまれて、いつしか自然とのつながりや、自然の恵みへの祈りや感謝という豊かな精神性を、どこかに置き忘れてきてしまった。」
谷崎テトラさんは、そう警鐘を鳴らす。
谷崎テトラさんは、いまでは毎年10万人が集まる日本最大のアースデイイベントとなった「アースデイ東京」のムーブメントをつくった立役者だ。TV・ラジオ番組の放送作家としてのキャリアを30年近く積み重ねてきた中で、長きに渡り、環境番組をつくってきたことが、谷崎テトラさんを地球のガーディアンとしての使命へと導いていった。
「地球環境が本当に危機に瀕しているという状況だということが、肌感としてわかってきたんですね。1997年に地球温暖化防止京都会議(COP3)が開催され、京都議定書が締結されました。気候変動が大きなテーマになったわけですけども、僕たちの想像を超えるスピードで深刻な事態が進んでいたことに愕然としました。かつての環境運動は、企業が起こす公害に市民が反対するといった、わりと善悪がはっきりしているものだったんですけども、気候変動の問題は僕たち消費者が加害者でもあります。だから、僕たち一人ひとりの消費者に訴えかけないと解決されない。僕たちの生活そのものの質を変えていかないといけないし、価値観を変えていかなくちゃいけない。そのための入り口として、2001年にアースデイ東京を立ち上げました。環境や気候変動のことに興味をもつ最初の一歩がとても重要だと思ったからです。これは環境運動というよりも、価値観に変革をもたらすための文化運動なのです。」
自分起点であれ、ポジティブであれ。
新しい価値を世の中に提案する者として、それが、谷崎テトラさんが一番大切にしていることなのだろう。
かつて、インドの独立運動の父としての使命を尽くしたマハトマ・ガンジーは云った。
“Be the change you want to see in the world.(見たいと思う世界の変化にあなた自身がなりなさい)”
世界の革命には、いつも「花」の名前があった
歴史を振り返ると、チュニジアの「ジャスミン革命」(2010-2011)、キルギスの「チューリップ革命」(2005)、グルジアの「バラ革命」(2003)、ポルトガルの「カーネーション革命」(1974)等、世界の革命には、いつも花があった。
「この写真は、泥沼化していったベトナム戦争への批判が高まった1965年に、アメリカ国防総省の本庁舎・ペンタゴンの前に集まったデモ参加者が、自分に向けられた銃口に1本ずつ、花を挿していったときの有名な写真です。」
谷崎テトラさんが取り上げたのは 『フラワー・パワー』と名付けられ、その年のピューリッツァ賞にノミネートされた一枚の写真だった。なんと、勇気ある行動だろう。もし自分に銃口が向けられたとして、私はそんな行動をとることができるだろうか。
当時、アメリカ西海岸では、ベトナム戦争へのカウンターカルチャーとしてヒッピー文化が急速に拡大していった。愛と平和、そして自然とセックスを大切な価値観とする彼らが、その象徴として「花」を身につけていたことから、ヒッピーの文化は「フラワームーブメント」と呼ばれた。彼らの文化は音楽と密接な関わりを持ち、1967年には「音楽と愛と平和」を掲げた音楽フェスティバルが開催され、ヒッピーを中心に、およそ20万人が参加している。オールディーズを代表する「花のサンフランシスコ」は、このフェスのために書き下ろされ、ヒッピーのテーマ曲といえるものだった。そんなヒッピーは、フラワーチルドレンと呼ばれていた。
花はいつの時代も「愛と平和」の象徴として「憎しみと暴力」を牽制してきたが、フラワーパワーが世界中に満ちてゆけば、きっと、もっと、素敵な世の中になるのではないか。
邦題 「花のサンフランシスコ」(スコット・マッケンジー)
https://youtu.be/7I0vkKy504U
「花」の力を携えて、生きる
谷崎テトラさんは京都造形芸術大学で教鞭をとる傍ら、2019年5月より大阪のエルス自然学校で、「いかに花の力を自分自身や普段の生活に取り込み、花がもつ波動やパワーをエネルギーとしてチャージして、自然とつながるか」についても講義を持つ。一見、非科学的に聞こえるかもしれないが、世の中にはロジックで説明しきれない何かがある。
「ノストラダムスは世紀末の預言者だと思われていますが、実は植物の力を生活に取り入れることを研究していた人なんですよ。自然の中の神秘を、いかにして取り入れるかが彼の研究テーマであり、それをいかに伝えるかという観点から、彼は人々の共感を得るために”詩”というアプローチをとって、詩人でもあった。現代風にいえば、女性誌のコラムニストのような人だったんです。” ノストラダムスの予言”は、彼の詩が後世にオカルト的な意味合いに書き換えられたものにすぎないんです。」
それゆえ、ノストラダムスの著書にはレシピ本があり、バラのジャムの作り方が記されているというのだから、驚く。花とみどりが好きな、ごく普通のおじさん。そんな新しいノストラダムスの人物像に、急に親近感が湧いてくる。
「さらに言うと、ゲーテは詩人として有名ですが、実は植物を子細に観察する植物観察者でもあったのです。ゲーテは、何百枚もの植物のスケッチを書いています。生命の力、自然の力を観察し、ゲーテもまた、”詩”というアプローチを選択しました。これは、合理性に基づく植物図鑑の分類や分析のアプローチとは真逆の世界。この花はいったいどういう構造をしているのだろうといって、根を引っこ抜いて観察するという無粋なことはしないわけです。だから、ゲーテのスケッチに根を書いたものは、ひとつもない。」
つまり、観察対象から情報を引き出すとき、そして、それを人々に伝えるとき、ノストラダムスやゲーテには”感性”や”美意識”を大切にする視点があった。
「真の豊かさというのは、非科学性の中にあるものと考えられてきました。」
”感性”や”美意識”は、非科学性に分類される。歴史的にみても、「非科学性」は説明がつかないものであるがゆえに、文明によって発達した「科学的合理性」によって否定されてきた。西洋にもアニミズムの考え方はあったが、中世には魔女狩りといった形で社会的排除に遭ったことは典型的事例だと、谷崎テトラさんは分析をする。しかし最近、心理学や幸福学、脳科学の領域で新たな研究が進んできた。私たちビジネスパーソンの間でも、ロジカルシンキングよりも、アート思考やデザイン思考が人気となっていることは、ある種の自然への原点回帰であるともいえるのではないだろうか。いわば、ロジカルが行き過ぎた状態が砂漠世界なのかもしれず、AIやロボット中心の無機質な世界へのカウンターカルチャーを私たちは求めているのかもしれない。
“A Rose is a Rose is a Rose is a Rose.”
現代モダニズム芸術の母と呼ばれた、ガートルード・スタイン。
アメリカを祖国に持ち、パリを故郷として、芸術サロンを主宰し、ピカソやマティスを支えた人物である。
A Rose is a Rose is a Rose is a Rose.(薔薇が薔薇であるということは、薔薇は薔薇であるということである)
ガートルード・スタインの、確固たるアイデンティティを表す名言のひとつだが、「アヴァンギャルド(前衛)」という新しい価値観を支持した彼女らしい名言だ。芸術や文化における前衛表現の特徴は、現在の規範や常識と思われている事象の限界点や境界線的な部分を前面に押し出す、または越境することであるという。新しい価値観にシフトする。その時に問われるのが、まさに確固たるアイデンティティなのではあるまいか。
谷崎テトラさんも、”感性”や”美意識”を大切にするひとである。フラワーパワーを大切にしながら、確固たるアイデンティティを持って、今日も 「持続可能な社会への転換」 という新しい価値観を社会に提案し続けている一人である。
「2012年に国連 地球サミット(RIO+20) に、当時、NGOとして参加し、運営や社会提言に関わりました。そこで、グリーンエコノミーが話し合われましたが、具体的な内容には至らなかった。地球は絶望的な状況にある、と会場にはあきらめの空気が満ちていた。そんな中で、南米の小さな国が声を挙げた。せめて目標を決めませんかと。そこで、各国の共通目標として設定されたのがSDGs(Sustainable Development Goals)だったんです。」
ワールドシフト。2009年9月、世界賢人会議「ブタペストクラブ」の創設者・会長であり、システム哲学と一般進化理論の創始者アーヴィン・ラズロ博士やゴルバチョフ元大統領などが、持続可能で平和な社会に向けて緊急提言を行ったことからスタートした、地球が迎えている未曽有の危機を乗り越えるために、今必要とされる、社会、経済、意識のシフトを訴える世界的なムーブメントである。そのムーブメントを、ここ、日本でも起こすべく仕掛けている人が、谷崎テトラさんだ。その終わらない情熱の原点は、どこにあるのだろうか?
「1998年に、英国北部にある世界で最も有名なエコビレッジ・フィンドホーンを訪れたことが大きいですね。」
北海沿いにある荒涼とした土地で、花など咲かないとされていた北の果ての地だったが、花やみどりであふれ、咲かない花も咲いた、奇跡の地。植物の精霊に語りかけながら植物を植えると、咲かない花も咲き、実らないはずの野菜も実るという。花の持つ波動と調和し、フラワーパワーを上手に生活に取り込み、伝統的な智慧を大切にしているコミュニティがあるのだそうだ。
「日本人も、かつては自然とつながり、豊かな精神性を持っていました。僕のおばあちゃんは、いつも必ず靴に手を合わせ、靴をそろえていました。感謝をしていたんですね。感謝するということ、祈るということ。通じるものがあるのかもしれません。」
日本最古の書物『古事記』には、大昔、人々は草木と語り合っていたという記述がある。
自然とつながりを持っていた豊かな精神性、そして「もったいない精神」でひとうひとつの恵みに感謝して、大切に使っていた文化を日本に取り戻したい。その想いを原動力に、谷崎テトラさんは、今日も新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会の転換(ワールドシフト)の 発信者&キュレーターとして、自分起点で世界中を駆け回っている。