ブルガリアンローズ文化協会 理事長 山下文江氏

一般社団法人ブルガリアンローズ文化協会理事長。有限会社メイリリィ代表取締役。フランスのグラースにある調香専門学校ASFO GRASSE等で、調香やアロマセラピー等、幅広く香りを学び、独自の香りの世界 『香楽』を展開。フレグランスアート(教育)とフレグランスセラピー(ヒーリング)をコンセプトとする 『香楽』を通じて、香りをつかった情操教育や嗅覚教育、生涯学習の普及に努める。女性起業家を応援する 「横浜ウーマンビジネスフェスタ実行委員会」の実行委員長も過去に務め、女性起業家を温かく応援し、導く人でもある。ブルガリアのダマスクローズから採れるローズウォーター/ローズオイルの商品開発・普及のため (一社)ブルガリアンローズ文化協会を設立し、ブルガリアの薔薇を日本に広める活動を行う。著書に『命をつむぐバラ』、『香楽 ~香りで広がる心のアート』、『幸せを呼ぶ香りのセラピー ~あなたが創る、あなたの香水』がある。

命をつむぐバラ

「私は一度、死にかけました。その私を救ってくれたのが、ブルガリアのバラでした。」

山下さんの起業ストーリーは、その穏やかで優しい雰囲気を香水のように纏っている印象からは想像ができない、壮絶な言の葉から始まる。自律神経失調症となって眠れず、食事もとれず、体力的にも、精神的にも、死ぬ一歩手前のギリギリのところまで追い込まれてベッドから起き上がれなくなっていた、その時。偶然にバラのかぐわしい香りに気づき、ご自身が香りをとても好きだったことを思い出し、体も、心も、蘇り、生きる力を取り戻した原体験を持つ。その後、シングルマザーとして4人の子どもを育てるために、香りの勉強をしようとフランスのグラースへと渡り、フレグランスデザイナーとして自立する道を歩み始める。

香りのバラ、ブルガリアンローズを内服することができる素晴らしさを伝えたい

「百花の女王」と古今東西に渡って称えられてきた、バラ。美の象徴であるエジプトの女王クレオパトラから、ローマ帝国の壮大な歴史において悪名高き暴君ネロ、ナポレオン一世の皇妃としても「モダンローズ」の母としても名高いジョセフィーヌまで、バラは王侯貴族や富裕層に愛されてきた。そんなバラは、権力とおカネの象徴でもあり、いまでも一級の特別感を纏う花である。バラの種類は5万種あるといわれているが、観賞用の園芸バラがほとんど。そのうち、香水用のバラはダマスクローズ、セントポーリア、アルバの3種類しかない。その中でも、ブルガリア産ダマスクローズは、世界中の調香師から逸品と称されるほどの品質の高さを誇る。

そんなブルガリアのバラが、伝道師として選んだのが山下さんだった。或る日、山下さんは、内服できるブルガリア産ダマスクローズのローズオイルとローズウォーターに出会う。水蒸気蒸留でつくられたオーガニックなブルガリアンローズは、長い間、睡眠障害に苦しんでいた山下さんを救い、みるみるうちに山下さんは健康を取り戻していった。ブルガリアの国では、ブルガリアンローズを長い間、目薬や胃腸薬として使ってきたという。バラを内服することは、ウェルネスを育むことに繋がることを、ブルガリアの人々は知っていたのだ。内服できるローズウォーターが人気となり、香料を沢山つかった安価なものが市場に出回るようになっても、山下さんはオーガニックなブルガリア産ローズウォーターを普及することにこだわり続けた。ブルガリアンローズは一年に3週間しか咲かず、温暖化の影響か、最近では10日間しか咲かない年もあるという。その命の凝縮である自然な製法で生成されたブルガリア産ローズウォーターは、当然のことながら希少価値が高く、高価。

「元気という漢字は、元の気と書きます。ローズは、その”元の気“を調整してくれるです。昔から王侯貴族等の一部の限られた人だけが持っていたバラですが、彼らはその効果効能を知っていたからこそ金より高かったといわれるブルガリア産ローズウォーターを大切にしていたのではないでしょうか。」

健康と若さを保つためには、いつの世も、おカネがかかるということだ。
ホンモノは、いつでも希少性が高く、高価なものである。

6月2日は 「ローズの日」、ブルガリアのバラ祭りを日本にも広めたい

「ブルガリアには”バラの谷”と呼ばれる場所があって、上質なローズオイルはそこでつくられています。農業国であるブルガリアの国の大切な産業のひとつは、貿易で金よりも高かったともいわれる、このブルガリアンローズのローズオイルとローズウォーターです。6月になると、その収穫を祝うバラ祭りが盛大に開催されるのです。一年に一度の豊かな自然の恵みへの感謝、日頃お世話になっている人たちへの感謝。町中が感謝の気持ちで溢れる、それはそれは、とても美しい光景が広がります。」

山下さんは、自分の命を救ってくれたブルガリアンローズの素晴らしさを伝え広める使命に従って、これまで何十年にも渡って、様々なアプローチでブルガリアのバラの普及活動に取り組んできた。内服できるブルガリアンローズの香りは美しく、華やかで、人に幸福感をもたらす。ウェルネスと美容の用途もあるけれど、ブルガリアンローズを日本でも食文化として普及させることができないだろうか。

そして、山下さんは和食の巨匠である中村孝明シェフ、ソーシャル活動に関心の高い層にも人気のイタリアンの巨匠である片岡護シェフ、ヌーベル・シノワで人気を博する脇屋友詞シェフ、伝説のバーテンダーとして不動の地位を築いた尾崎浩司さん等の応援を受け、ブルガリアンローズウォーターを調味料として使ってもらうことに成功した。

「一流のシェフは、みなさん、とても勉強熱心で、創造性豊か。ブルガリアのローズウォーターに出会うと、みなさん目をキラキラさせて何を創ろうかと楽しそうに考えてくれるんです。それが、とても嬉しくて。」

そう語る、山下さんの目もキラキラしていて少女のようだ。

また、次世代教育への貢献を目的として「ローズウォーターレシピアワード」を開催。毎年、調理製菓専門学校の学生を対象にローズウォーターを使った独創的なレシピを募集し、ファイナリストには最終実技審査でスターシェフからの評価や指導を通じて、プロフェッショナルとしての心構えや創意工夫の大切さを学ぶ創発機会を共創している。

ブルガリア大使館の後援を受けて、2011年に6月2日は「ローズの日」と宣言していただき、毎年ブルガリア大使館でバラ祭りを共催してはいたが、2017年には日本の記念日として(一社)日本記念日協会に正式に登録をした。ブルガリアではバラの収穫を祝う感謝祭が6月初旬に行われる。その文化を日本でも広く定着させて、バラの花のもとに人々が集い、ブルガリアのようにバラが感謝の象徴として、温かい平和な世の中に導いていく。それが、山下さんの心から願いである。

2018年には、その願いを実現させるべく、ブルガリアのバラの親善大使・ローズクイーンとしての栄誉に輝いたツヴェテリナ・イリエバさんを横浜に招聘。「ローズの日」の発信と、「バラの街・横浜」と「花とみどりのガーデンシティ横浜」のシティブランドを国内外にPRするイベントを企画実施した。

ブルガリアのバラの収穫を祝う感謝祭では、毎年、ローズクイーンが選ばれている。ブルガリアのバラの収穫祭は100年以上の歴史があるが、このローズクイーンを選出する一大イベントも半世紀の歴史があり、ダマスクローズを収穫するバラの谷の地域だけでなく、国民的なお祭りとなっている。ローズクイーンの栄誉に輝いた彼女たちは、ブルガリアの国のバラの親善大使として活躍し、実は日本にも毎年訪れていて、日本とブルガリアの友好関係を深めている。

バラの花のもとに人々が集い、ブルガリアのようにバラが感謝の象徴として、温かい平和な世の中へと導いていく。そんな山下さんの強く、確かな想いは、蝶が花粉を運んでいくように、様々な活動として横浜を中心に広がり始めている。ブルガリアから、横浜へ。横浜から、世界へ。ブルガリアンローズを起点に、ローズの感謝の輪が広がり始めている。